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■猫の便秘について考える


昨今、お客様から「猫の便が固くて排便が苦しそうなんですが・・・」という相談を受けることが多くなりました。そんな相談の多くは10歳以上の高齢猫ちゃんが殆どです。
もう10年以上も前のことになりますが、その当時、18歳のシャム猫ちゃんが非常にきつい便秘で飼い主さんは1日おきに摘便(固すぎる便を肛門から摘出してもらう)の為に動物病院に通っていました。
その時、既に放置しておいたら全く便が出ないという状態に至っていたのです。
(それでもでも、1日おきの摘便はやりすぎだと思いますが・・・)

そのシャム猫ちゃんは、とにかく好き嫌いが激しく若い頃から缶詰しか食べず、ドライフードを一切口にしないという頑固猫でした。(調理した肉や魚も食べませんでした)
更に缶詰以外で水分以外は殆ど飲まないという徹底ぶり。お客様とは長いお付き合いでしたので、普段からそんなお話を伺っていたこともあり、実際に「便が出なくなった」ということを聞いた時には「来たか・・・」と思いました。

缶詰は80%前後は殆ど水分なので、できれば好みの繊維質の多いドライフードを探してあげて、水でフードをふやかしたり、普段から水分を沢山摂取できるようにしてあげた方がいいと思いますよ、とお伝えしたのですが、猫ちゃん自身が絶対に受け付けないとのことでお渡ししたサンプルも食べてはもらえなかったのです。そのうちに、徐々に便が固さを増し、ウサギの糞のようなものしか出なくなり、トイレに長い間座るようになりました。そして、食事をしても嘔吐してしまい、終いには黄疸が出てしまいました。

困った飼い主さんが動物病院に相談したところ、やはり繊維質の多いドライフードや缶詰を勧められたそうですが、好みではなく一切受け付けなかった為、レントゲン撮影で状況を見ると何とコロコロのウンチが腸の中に沢山詰まっていたそうで、急遽摘便ということになりました。
その後、点滴を受け、一時的には持ち直したということです。しかし、暫くすると再び同じ症状に襲われた為、点滴と摘便を繰り返すことになりましたが、それがイヤだったのか猫ちゃんは病院へ連れて行かれることを拒むようになりました。
それで、仕方なく食物繊維(さつまいも)を缶詰に混ぜたところ、今度は一切食べてくれなくなりました。その結果、悲しい結末を迎えてしまいました。
この猫ちゃんのように普段から余り水分を摂取しない猫ちゃんはめずらしいと思いますが、水分摂取はしっかりしている猫ちゃんでも、獣医師が理想とする「水分摂取量」を満たしている猫ちゃんは少ないように思います。

しかし、昨今では繊維質もしっかり配合されたドライフードを食べていても便秘症状に陥る猫ちゃんは確実に増えていることは確かで、特に肥満傾向の猫さんの多くが便が硬めです。
それにはどんな理由があるのでしょう。毎日の水分摂取量が少ないから・・・?加齢により腸の蠕動運動が低下してしまったから・・・?
どちらも確かに間違いではないと思います。

でも、それならば毎日しっかり水分を摂取して、繊維質を多く含むドライフードを食べているのに何故、便が硬くなったり、出にくくなる猫ちゃんが多いのでしょう?


極度の便秘にはなっていないまでも、飼い主さんが昔に比べ確実に排便状態が悪くなったという猫ちゃんの特徴を調べてみました。

1.10歳以上の高齢猫

2.普段から小食で偏食な長毛種

3.普段から水分摂取量が少ない

4.ドライフードを好まず、ささみや缶詰のみを主食として他に余り水分を摂らない

5.多頭飼いで常にストレスを抱えている

6.長期に渡り抗生物質等を投与された後から便が出にくくなった

7.避妊去勢の手術後から体重が増加し肥満になった

8.運動することが少なくいつもゴロゴロ寝てばかりいる

(事故などで骨盤が狭くなっている等の特殊なケースは除きます)

多くの排便トラブルを訴える猫ちゃんのケースが上記のケースにあてはまりました。中でも長毛種で高齢猫は特にその傾向が強いようです。更に高齢になるとよく吐くというケースと便秘がダブルで見られることにも多いようです。

ただ、確かに吐き上げも便秘と同時に見られることが多いのですが、これが完全に便秘が原因で吐いているとは限らないこともありますので、頻繁に嘔吐や吐き戻しが見られる場合は、念のため動物病院で詳しい検査をおすすめします


また、多くのお客様に共通することですが便秘を非常に軽視している方が多いようです。
特に飼い主さんは毎日トイレの掃除をしておられるわけですから、便の状態は把握している筈です。
便秘は急に始まるわけではなく、殆どの場合、徐々に便の状態が変わっていくのです。

最初は長さと太さ、艶のあるしっかりした便から徐々に短くコロコロした便に変わっていきます。
けれど、コロコロした便になっていても、「毎日排便はある」ということで余り気にしていなかったり、便の量が減ったことで、トイレの掃除が楽になったと思っている飼い主様さえおられました。

でも、そのうちに猫ちゃんの様子がおかしいことに気づき始めます。それが以下のような内容です。

●トイレに入る前に必ず駆け回る。(高齢になると駆け回ることも余りなくなります)

●トイレに何度も出入りしたり、便が出るまで長い間トイレに入っている。

●便をしようと力むと、トイレの中で吐き上げるようになった。

●毎日の食事量に比べ、明らかに便の量が少ない。

●以前は長い便が見られたのに、今ではコロコロとした小さな便ばかり

●トイレにしてあるウンチの量が少なくなってきた。

●運動することが減りゴロゴロ寝てばかりいるようになった。

●トイレで力んでいて、突然に大声で鳴くことがある

上記のように必ず便秘状況に至るまでに把握できる変化はあるのですが、それ以外には食事も行動も特に変化が見られない為に問題ないと考える方が多いわけです。


でも、確実に・・・そして静かに便秘は進行しているのです。
そこで、変化に敏感な飼い主さんは食事などに配慮することで便通を改善しようと試みるわけです。

初期段階であれば、サツマイモを蒸かして磨り潰したものを食事に加えたり、スープにしたり、オリゴ糖や市販の食物繊維を缶詰やレトルトに混ぜたりすることも有効だと思います。しかし、全ての猫さんがせっかく作ってくれた食事を好んで食べてくれるとは限らない場合もあります。
また、食物繊維だけを加えても便の状態は殆ど変わらない場合もあり、そこで心配になった飼い主さんは病院に相談することになります。

通常は病院に行けば、なるべく初期は繊維質の多い食事に変えるなどの指導をされます。
また、嘔吐などをするようになったと伝えれば、血液検査をすすめ、特に腎臓などに問題がない場合は、ラキサトーンなどの毛玉除去剤が処方されます。便の詰まりが軽度であれば、これで一時的に便が出る場合もあります。
でも、ラキサトーンの成分でもある石油系の流動パラフィンやワセリンなどが長期に与え続けるには安全面で疑問があるとする意見もあります。

でも、便が出せない状態を長く続けたり、放置しておくと状態は悪化し巨大結腸症などの心配も出てきますので、お腹に溜まった便は出してあげなければなりません。そのため、病院では補液を行ったり、腸管刺激剤を与えたり、モニラック(ラクツロース)などの薬剤で便の水分を増やし排泄を促すなどの処置を行いますが、それもそれで何度も与え続けると、薬剤に耐性が出来て徐々に効果が薄くなるなどの問題もあります。

その結果、自力で排便ができず、薬剤でも排便を促すことが出来なくなった場合は「浣腸」や「摘便」といった直接的な方法で溜まった便を出してあげなけれなりません。

浣腸についてですが、猫に慣れた獣医師さんは猫の体への負担を考慮し、体温程度の温水で浣腸を行ってくれることもあるようですが、多くの場合はグリセリンの濃度を調節した浣腸液を使用します。
この浣腸も、便の詰まり具合が酷くなると、週に2回程度行うこともあるようですが、グリセリン浣腸液を肛門から何度も入れることで、腸の粘膜を薄くしてしまうなどのリスクもあり、処置の際にも腸に傷をつけないよう技術的配慮が必要になります。

摘便に至っては、直腸に便が詰まりきって浣腸でも出ない場合の最終的な処置になります。
摘便は、直接指を肛門に入れて、便を掻き出すわけですから、猫さんにとってもかなりのストレスになります。
女性の獣医さんの細い指で摘便してもらえるならまだしも、ゴツイ男性獣医さんの太い指で、便を掻き出されるとなれば、同じ摘便でも、猫さんにかかる負担はかなり違うと思います。
その為、摘便の際は麻酔を使うこともありますし、体への負担もさることながら、直接肛門から硬化した便を掻き出されることで腸管に傷がつくリスクはかなり高くなります。その為、通常でも処置が終わった後に細菌感染予防の目的で抗生剤を処方されることが多いようですが、どちらにせよ摘便は猫さんにかなりの負担がかかりますので、グッタリしてしまう猫さんも多いようです。

以上が便秘についての関する問題となりますが、これらはあくまでも対症療法であり、根本的な改善ということではありません。
その為、「便秘」という1つの症状だけを見るのではなく、もっと広い意味で猫さんの健康を考えてみようと思います。

 

猫のお腹と健康について考える

 

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